太陽が西から昇る

Rule,Britania! Britania rules the waves!
統べよ英国!英国は七海を制す
Briton never, never, never shall be slaved!
英国は決して隷属せじ

イギリス第二の国歌ともいうべきRULE BRITANIAの歌詞にあるように、かつて大英帝国は七つの海を制し決して日が落ちない帝国と言われたものだが、20世紀中旬よりそのほとんどの植民地を失いイギリス病と呼ばれる長い停滞の時代が続いていた 私は依然香港は英国であると信じて疑わないのだが、大英帝国の落日を目の当たりにするにつけ諸行無常を感じざるを得ない そんな折、香港の落日どころか、太陽が西から昇るほどの強烈な出来事があった
先日内地から再び大陸に渡った際にちょっとした事故があり、クレジットカードと蛸カードと羊カードと実弾900元が入った大陸用財布を亡失した 幸い活動資金は日銀券を大量に持っていたのでこれを後日換金することで当面は何とかなるが、月曜日に銀行へ行くまでの当座のカネと言えばマンション「悪の牙城」の部屋に散在しているカミクズ状の人民元と、内地用財布に入れてあった400香港ドルでなんとかまかなわなければならない カミクズをカキ集めたところでいくらにもならないので香港ドルが頼みの綱となる 大陸で香港ドルを使うのは実に惜しいのだが、背に腹は代えられない

かつて香港ドル人民元に対し1.1倍の値打ちがあり、大陸でこれを使う場合気の利いたところだと5%増しの金額で取り扱ってくれたものだ 大陸のほかの地方ではどうだか知らないが華南においては香港ドル人民元よりも価値があり、大陸で使うと喜ばれるのでめったやたらと使うのは惜しい また、ホテルなどちょっと気の利いた場所になると値段は香港ドル建てになっており、カミクズで支払う場合は割高になったものだ 紙幣そのものにしても、大陸のカミクズと違って立派な紙に立派な印刷が施してあり、硬貨は残念ながら1997年に香港が大陸に併呑されるに伴って刻印がエリザベス女王2世の横顔がハナズオウの花に変わってしまったが、大英帝国の威信未だ衰えずといった頼もしさを感じたものだ そういうマトモなカネを大陸なんぞで使うのは実にもったいなかったのだが仕方がない
「先生、これ99元で計算するが、いいか?」 スーパーのレジの服務員がとんでもないことを言い出すのでいっぺんに目が覚めてしまった 何じゃッてか?オレが渡したのは香港ドルやぞ?台湾ドルと間違えてないか? あわてて問いただすが、どうも店のいいつけでそういうことになっているらしい 香港ドル人民元の逆転現象である うわさには聞いていたが、身をもって体感したのは初めてだ
なんと、この麗しき大英帝国のカネが大陸のカミクズ以下になってしまったとは嘆かわしい ともかくも大陸ではカミクズがなければなにもできないので、財布の中の香港ドルはカミクズに両替してしまわなければならん 近所のタバコ屋で羊城を1カートン買い、30元の代価のために100香港ドル札を出すと、あろうことか香港ドルは受け取れないと来た 冗談ではない、依然あれほどうれしそうに香港ドルを受け取っていたくせに今になって受け取れないとは何事か バカボンの歌では太陽が西から上って東に沈むらしいが、まさにそれを実感しながら足取り重く帰途に着く この美しい100香港ドル札が手アカ・鼻水・ラクガキに満ち満ちた人民元よりも価値がないとは悲しいことだ 腹いせに100元札の毛沢東にハナ毛を描いてやろうと思ったのをかろうじて思いとどまる 時代のうつろいとはザンコクなものだ