シカバネになる

ここ広東省は亜熱帯といえども冬はきちんと寒いのであり、なおかつ乾燥することから空気がきわめて汚くなる
加えて工場などの閉鎖環境で風邪などが流行ればたちどころに感染してしまう
特に工場などでの風邪の伝染速度はきわめて速く、ほとんどのワーカーが5人部屋の宿舎に居住しているので流行り出せばあっという間である
こういった集団生活の場において伝染病は実に怖いものであり、4年前のSARS騒動の時など1週間ほど工場を閉鎖というか台湾人幹部以下ワーカーごと籠城したらしく、外からの侵入者を一切ブロックしたため当時駐在していた相棒の牛某は出張先の温州にて「帰って来てはならん」との工場からの連絡を受け、温州でテキトウに無為の時間を過ごしたことがあったらしい
こうなると映画「アウト・ブレイク」を地で行くようなもので、特に最近のトリ流感なども風説によれば実は軍の生物兵器の事故らしく四川省で村を3つほど消したとかいう話もあるので剣呑である

さて、私はこう見えてもバリケードにできている
外傷にはめっぽう強くトカゲの如き治癒能力を誇るのだが内患にはもろく、まるでどこかの国のようである
特に過敏気味であるのでホコリの多い環境に長時間居ればたちどころに耳鼻咽喉系統がおかしくなる
昨年あれほど帰国を夢見ていたにもかかわらず3月から4月は例外であり、もし本国から帰国指令があったとしても適当な理由をつけて大陸に残留したことであろう
殺人的な花粉症の季節はともかく、粉塵の多い環境にいるとあっという間にノドと鼻の粘膜がやられ、セキが停まらなくなる上に鼻腔が完全に閉塞され、寝ている間にハナミズが耳に逆流してきて遂には中耳炎に至る
毎回風邪を引くとこういう症状になるので困ったものだ

先日客人が来た
広州方面へ連日アテンド業務に従事していたのだが、タクシーに乗るとまず排気ガスでやられる
毎回思うのだが、広州へ行くたびにクルマの通行量が増えているような気がするが、これに比例して空気も次第に悪くなっている
広州方面へ出かけるとなるとたいてい複数の案件を掛け持ちになるので、一日の半分はタクシーでの移動になるが、最近はこれがなかなかこたえるようになってきた
そうしてフラフラになった上列車で常平に帰るのだが、どういうわけか列車の中の空気が最近ひどく悪い
空調のフィルターが完全にイカれているようで、メガネを外して脇においておくだけですっかりホコリだらけのスリガラスのようになってしまう
そういう空気を1時間も吸っているうちに、すっかりガタガタになってしまった

ともかく夜はスットンコと寝てしまわなければならん
幸い寝袋を二重にすることでかなりの保温が期待でき、布団と違って寝相が悪くとも朝起きるまで拘束衣のようにしっかりとあたたかい空気を保ってくれる
ところがノドがイカれると面倒で、夜通しセキこんで朝には腹筋が筋肉痛になってしまうのでは具合が悪い
そこで、これまで試したノド防護の手法の中でもっとも効果のあるものを試す
こちらの香港系食堂には「ショーガ入りホット・コーラ」なる恐るべき飲み物があるが、これはかなりノドに効き、昨年こちらで社長が倒れた時にもこれを試したくらいである
コーラを沸かして粉末生姜をブチこむだけの簡単なシロモノながら、効果は覿面で、なんのことはない、これはのどのクスリとほとんど変わらない内容である
ついで夜寝ている間にハナミズが逆流しないためにも鼻腔の空間を確保しておく必要がある
これには内地から持ち込んだ鼻洗浄キットが役に立つ
これは簡単な水タンクとポンプとシリコンゴム製のホースからできており、ホースを鼻の穴の片方に突っ込んで水(温水がよい)を注入し、反対側から出すというもので、やっていることはオウムの修行のナントカ・クンバカと変わらない
これをやると鼻の中が大変すっきりし、炎症を起こしていた粘膜も冷やされるせいか鼻の通りが実によくなる
花粉症の時には必需品であったが風邪を引いたときも重宝しているのである
最後に寝袋を二重にし、息がしやすいように顔にタオルをかける
そうすると実に安寧な心持になり、快適に寝ることができる
どうも人間狭いところに突っ込まれるほうが却って安心できるよう本能が備わっているのかもしれない
しかし、外見はどう見ても死体袋に収まった死体だ
何かの間違いで公安がフミこんだら誤解するかもしれない
ともかく、空気の汚い季節はナンギなものだ