カネを洗う

最近は大陸の銀行の玄関口に「洗銭XXXX」とかいうマネーロンダリングの宣伝もとい撲滅スローガンがよく出ているのを見かける いわゆるXXやXXにまみれたキタないカネをクリーンなカネにすることを俗に「カネを洗う」というが、中国語でもそのままで「洗銭(XIQIAN)」と表現するようである この度図らずもカネを洗ってしまった顛末は下記の通りである
私の悪い癖で、洗濯するときロクにポケットの中身を確認せずに洗濯機に放り込んでしまうので、すすぎ・脱水が終わりピーヒャラリと洗濯機が鳴ってフタをあけてビックリということがよくあるしばしばあるのがタバコをパケットごと洗ってしまうという奴で、これは実に始末に困る 洗濯機の中一面にタバコの葉がブチまけられているだけでなく、ポケットはおろか服の縫い返しの裏側などあらゆる隙間に入り込んでコビリついているので、こういうのを目撃した直後は人生に対する前向きな姿勢が音を立てて崩壊するのを感じる 次にやってしまいがちなのが硬貨である 常平ではどういうわけか皆硬貨を嫌がり、仕方がないので財布に入れるのだが、私の財布には小銭入れがないので札を入れるところに硬貨を入れると、どうも財布も硬貨を嫌がるようでポケットの中で硬貨だけ財布から転げ落ちてジャラジャラとたまるのである 硬貨を洗っているときの洗濯機の音はガラガラと実ににぎやかで、微小な金属部品を磨く水バレル研磨と同じ理屈で硬貨がピカピカになるのはなんだか楽しい
一方で、楽しくないのが札を洗ったときである なにせ大陸の人民元はもっとも小額なものに至るまで紙幣であり、これがまたおそろしく汚くボロいのである わが日本国の日銀券は紙幣として最も優れたものの部類に入り、建設省国土地理院発行の地形図同様、水に濡れたくらいではビクともしないのであるが、大陸のカネとなるとそうもいかない もともとの紙質がチョボくさい上に恐るべきムチャクチャな流通過程を経て半ばボロ布のようになっている ひどいものになるとメモ代わりにラクガキが入っているものもあり、以前電話番号が書き込んであるのを見て、「どこのバカか知らんがアンタの電話番号が10元札に書き込んであったので思い当たる人物に然るべき注意をするよう衷心より忠告するものである」と電話をかけて伝えたくなったのをグッとこらえるということもあった さて、これを湿潤させた上に脱水という強烈な外力を加えた場合、何条もってたまるべき、洗濯を終えてフタを開けるとアラ不思議、数が増えているのである ポケットの中にはビスケットがひとつ、叩いてみたらばオカンに怒られたという童謡があったような気がするが、人民元の場合においてもどうやら同様の状況を呈するようである
内地で一人暮らしをしていたときは洗濯機が二槽式であったため、こういった事故は最初の洗浄セグメントが終了し、手動で脱水する際に水面にプカプカ浮いているのが現認できるので、ヤレヤレとか言いながら札をつかみ上げては窓ガラスに貼り付けていたものだが、全自動の一槽式となると全セグメントが完了するまでフタ閉めっぱなしのホッタカラカシ一貫作業であるから発見した時点ではすでに時遅し、哀れバラバラにされているのを所轄の鑑識が回収に当たることになる 往々にして3つから4つに分断されてしまうのだが、その場合ホトケのパーツが足りないのも往々にしてあり、どうやら特にボロくなっている部分がパルプ単位にまで還元されてしまっているか、もともとが伝説の宝の地図みたいになっている奴をセロテープでくっつけてあったようなものであるようだ
今回のものは特にヒドかった バラバラ事件発生の報に接した福井県警常平駐在所は規定に従って遺体を回収の上司法解剖に回したところ、死因は溺死、残留せる模様や色からどうやら元は20元札の様であったようだが四肢の欠損が著しく、無数の擦過傷および裂傷に生活反応が濃厚に検出されることから被害者は生前から日常的に暴行・虐待を受ける環境にあったものと推測され、死亡後の遺体の損傷が甚だしいことから人物の特定および既往歴については判別不能なるもかろうじて残っていた模様がハゲ頭であることから性別は60〜73歳の男性であることは間違いないようだ
20元ともなるとバイタクに4回も乗れる大金であるが、こうなってしまってはただの紙くずである金本位制の時代の紙幣ならば破損したものであっても兌換ができ、不換紙幣であっても有価証券である以上物体としての紙幣そのものは無価値であることから相応の金額で交換が利くものであるが、ここまでボロでは湿っているだけにフロの焚き付けにもならない 普通モノは洗えばキレイになるものだが、洗うほどにボロになるとは情けない話である ともかくも、XXやXXにまみれた汚いカネを洗ってしまった 普通カネを洗えば利益を生むものだが20元の損失で終わってしまうとは、私もまだまだ善良な市民であるに違いない